A:復活の巨獣 リューバ
ある時、ドラゴン族を探し求めていた騎兵が、凍り付いたアッシュプールで、ひとつの発見をした……。
なんと氷漬けになった、巨大な魔獣を見つけたんだ。その騎兵は、魔獣の肉を使えば、ドラゴン族を誘き寄せられると考えたらしい。……止せばいいのに盛大に火を焚いて、氷を溶かし始めた。
すると驚いたことに、氷漬けになっていた魔獣が息を吹き返して、大暴れし始めたというじゃないか。
突き飛ばされ重傷を負った騎兵は、さぞ後悔しただろうよ。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
沈黙を破って口を開いたのは彼だった。
彼は訥々と話し始めた。
彼はファルコンネストに駐在するイシュガルド聖騎士軍の落ちこぼれ騎兵だった。何故落ちこぼれなのか?
イシュガルド聖騎士軍では数年に一度昇進審査がある。昇進するには貢献実績が必要となり、その実績の難易度や重要度が審査に大きく影響する。
実績を上げられなかった彼はもう4度の昇進試験に落ちていて後がなかった。
焦った彼は雪原に赴き、何とか実績を得ようとドラゴンを探し回った。千年のあいだ竜族との戦争を続けているイシュガルドにあって竜族の討伐は貢献度としての評価がかなり高いのだ。そしてアッシュプール付近の崖の隙間に氷漬けになった巨大な魔獣を発見した。
今思えば「氷結した巨大魔獣の発見」それだけでも実績として取り扱われた可能性は十分に高い。だが彼はこの魔獣の死肉でドラゴンを誘き寄せ、より高い実績を得て周囲を見返そうと考えた。
魔獣の死肉を得るため、近くの廃村から一心不乱に廃材を運び、盛大に火を焚いて氷を溶かした。
密度の高い氷もやがて溶けはじめ、あと少しで死肉が得られるそう思った瞬間、魔獣の目が開くのを見た。氷の呪縛が解け、魔獣が蘇ってしまったのだ。予想外の出来事に腰を抜かしてしまった彼が尻もちを付いて後退っている間に、魔獣は身体についた氷を払いのけ、動き出していた。
恐らく一瞬で氷結されたであろう魔獣も自分の置かれた状況が飲み込めずパニックになった。恐ろしいほど怪力と勢いで大暴れし、それに巻き込まれた彼は跳ね飛ばされて意識を失った。彼が保護された時、魔獣の姿はすでに周囲にはなかったが、彼が発見されたのはその焚火の後から50mも離れた場所だった。
「本当に後悔しているよ」
彼は涙を浮かべて言った。
「当時は昇進だけが自分の生きる道なのだと、他に道などないと思っていた。だが違う。体さえ動けば道なんて幾らでもあったんだ。身の丈に合わない聖騎士であることに拘り僕は全てを失った」
彼は顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。彼の世話はフィアンセだった女性が献身的に介護しているが、この先いつまで彼女が頑張れるかは分からない。
クラン・セントリオに戻ったあたしは担当の男に質問した。
「治療の方法はないの?白魔法で治すとか」
担当の男はジトっとあたしの方を見て言った。
「白魔法だって万能じゃない。成功率半々の賭けだったがその治療も既に失敗した」
「そう…」
「だがな、一つだけまだ手が残っている。」
担当はそう言うと今ではほとんど見ることもなくなった羊皮紙のメモをカウンターに置いた。
「古の呪術なんだがな。これだって確実じゃない。成功率で言えば半々だった白魔法より悪いだろう」
あたしは羊皮紙を手に取って読んだ。相方が横から覗き込む。
「これって…」
「そう、皮肉だろ」
担当は口角を片方だけ挙げてニヤッとした。
「材料で一番入手困難なのがそれだ。リューバの牙だ。奴を動けなくした張本人が奴を治す薬の材料なんだ。こんな皮肉なことはねぇ」
あたしは羊皮紙をパタパタと四つ折りにしてポーチにしまいながら言った。
「わかった。やる」